この記事では、LPガス会社と消費者との長期契約締結や契約解除に伴う違約金の負担について解説しています。
「ガス会社と消費者が長期契約を結んで良いのか」「ガス会社が違約金の負担はできるのか」について触れています。2024年7月に省令改正があり、これまでのサービス内容とは一変しています。
現在、LPガス会社と長期契約中の方は、参考としてご覧ください。
目次
違約金をガス会社が負担するのは難しい
かつてLPガス業界では、長期契約中の顧客が会社を乗り換える際、変更先の事業者が違約金を負担、いわば肩代わりするサービスが一般的に提供されていました。
顧客は、残額を支払うことなくガス会社を変更できたのです。
しかし現在では、ガス会社が違約金を負担することは難しくなっています。
2024年7月の省令改正による長期契約締結の禁止
2024年7月2日にLPガス事業に関わる「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令」が施行されました。
この改正は、集合住宅の入居者の環境を改善する内容がメインですが、その中で「LPガス事業者の変更を制限するような条件を付けること」が問題ありとしています。
つまりガス会社が顧客と契約を結ぶ際、違約金や契約解除料などを設けて、ガス会社の乗り換えを制限することが難しくなったのです。
簡単に言うと「長期契約を結んではいけない」ということです。
主に物件オーナーや集合住宅の入居者に向けた改正となっていますが、長期契約中の顧客に関わる部分も含まれています。
⇒改正ガイドラインを見る
※「5ページ目」(3)賃貸集合住宅等のオーナーや消費者等に対する過大な営業行為の制限・イ)LPガス事業者の変更を制限するような条件を付した契約等の締結の禁止を参照
顧客はいつでも無料で解約できる
この省令改正では「LPガス会社は、乗り換えようとしている顧客の残債を負担してはいけない」と直接定めている訳ではありません。
あくまでも「ガス会社の変更を制限してはいけない」という決まりです。
ただガス会社としては、「制約期間の設定ができない」ので、顧客は「いつでも無料で他社に変更できる」ことになります。
違約金の負担は(ほぼ)できない
ガス会社側としては、いつ解約されるかわからないので、残債の肩代わりは実質的にほぼ不可能になったと考えられるでしょう。
すぐに解約されてしまうかもしれないのに、違約金を負担するのは難しいからです。
ただしどんなケースでも絶対にできないと決まった訳ではありません。
残債負担できるかどうかは、あくまでもガス会社の判断によって決まります。
長期契約中の顧客が他社に変更する場合、一般的な考えとしては自費で残額を支払うしかありません。
ガス会社の中には、「消費者との認識が一致しているのであれば、違約金ありの契約を結ぶ方針」の企業もあります。
「法令解釈は各社さまざま」違約金負担できる企業もある
法律の条文やガイドラインは通常、含みを持たせた表現をします。
改正された条文は、一般的には上記した通り「設備投資は禁止」「長期契約を結ぶことは禁止」と解釈できます。ただ見方によっては「正当な理由があれば可能」とも認識できます。
条文の内容をどのように解釈するのかについては、各ガス会社の判断により分かれます。
実際に一部では、「顧客が納得しているのであれば違約金を負担する。長期契約を結んでも構わない。」という方針のガス会社もあります。
- 違約金を肩代わりした分、ガス料金に上乗せされること
- 長期契約を結ぶこと
つまり「顧客がしっかりと内容を理解しているのであれば、制約期間を設ける正当な理由として成り立つ」と解釈しているのです。
例外的ですが、事業者の判断によっては、一般の戸建住宅でも違約金の肩代わりができるかもしれません。
省令改正前の長期契約は有効
2024年7月以降は、「新たに長期契約を結ぶことがほぼ禁止」されました。
ただ当然ながら、省令改正前に結んだ長期契約が無効になる訳ではありません。
2024年7月より前にLPガス会社と長期契約を結んだ方は、その契約は有効です。契約期間を満了せずに解約する際には、違約金が発生しますのでご注意ください。
長期契約を結んでいるかわからない方
ご自身で「長期契約の途中」と把握している方が多いと思いますが、中には制約期間が設けられていることを認識していない(覚えていない)方もいるかと思います。
築年数が古い建物でも、省令改正前に設備投資を受けた建物では、10~15年の契約を結んでいるかもしれません。
※制約期間の有効性が認められる「最長の期間は15年」という判例があります。業界内では、15年を超える縛りは無効と認識されているので、それより長い契約を結んでいることはないと考えられます。
他社に乗り換え希望で「長期契約中かどうか」「正確な残額を知りたい」という方は、契約書を探していただくか、契約中のガス会社に尋ねるのが確実です。
新築住宅でもガス会社を選べる
これまで新築住宅においては、ガス機器や配管の施工など、本来は有償となるものを無償にすることが一般的でした。
特に建売住宅では、建物とガス会社がセットになっており、消費者は指定された事業者以外を選ぶことができなかったのです。(解約するには、多額の残債を支払わなければならない)
しかし長期契約を結ぶことが禁止されたため、省令改正後はガス会社選びが制限されることはなくなっています。参照:新築住宅のLPガスについて解説
設備投資で初期費用を抑えられない
LPガスのメリットとして「初期費用を抑えられる」という点がありました。
例えば都市ガスを新たに引き込む際には、まとまった費用が必要になります。オール電化のエコキュートが故障して修理・交換する際にも、数十万円単位のお金がかかるのが一般的です。
それに比べてLPガスは、初期費用を無料にできるのが大きな利点でした。
初期投資を抑えられることがLPガスが選ばれる理由の一つとなっていたのです。
しかし上記した通り長期契約を結ぶことが禁止された現在では、初期費用を無償にするサービスは実質的に難しくなりました。(都市ガスやオール電化よりも安くすることはできますが)
LPガス会社としては、大きなセールスポイントがなくなってしまったと捉えられるでしょう。
ただしリース契約を結ぶなど「制約期間を設けない形」で初期費用を抑える提案は、一部のガス会社で行っています。
制約期間中でガス会社変更の相談
戸建住宅にお住まいで供給中のガス会社と長期契約を結んでいる方は、残債を肩代わりしてもらうサービスは難しいとご認識ください。
戸建住宅・長期契約中で事業者を切り替えてガス代を安く抑えたい方は「残債を自身で払った上でどれだけ安くなるか」と考えていただくのが良いでしょう。
ガス会社を変えてどれだけ安くなるのか見積もり依頼は、当社で承っています。
ただし数は少ないですが、事業者によっては肩代わりできることもあるので、個別でご相談を承ります。
また集合住宅のオーナーで長期契約を結んでいる方は、物件や金額によっては肩代わりできる可能性がゼロではありません。個別の案内になりますので、契約内容を確認の上でご相談ください。
長期契約についてのQ&A
プロパンガス会社と長期契約の途中で解約することはできますか?
解約は可能です。ただし契約期間中の解約には、違約金が発生する場合があります。違約金の詳細は、契約書で確認できます。
乗り換え先のガス会社に違約金を負担してもらうことはできますか?
2024年7月に省令改正があり、顧客とガス会社が長期契約を新たに結ぶことが難しくなりました。これにより違約金の負担も難しくなっています。
どんな建物でも違約金の肩代わりは難しいですか?
戸建住宅の場合には、違約金負担は難しいと考えられます。ただ集合住宅の場合には、物件の規模や違約金の額によっては負担ができるかもしれません。詳しくはお問い合わせください。⇒問い合わせ
違約金の負担をしたくないのですが、長期契約にプロパンガス料金を下げる方法はありますか?
プロパンガスは、自由料金制ですのでガス会社と料金交渉する方法があります。長期契約中のガス会社に「料金が安くならないか」問い合わせてみましょう。
この記事は、私が作成しました。
静岡県出身。エネルギー業界に10年以上携わり、特にプロパンガスや都市ガス、電力を専門にしています。またウェブサイトや記事も自身で作成します。ご意見や感想、指摘などありましたら、気軽にお寄せください。⇒著者情報