日本国内で普及しているガスサービスは、大きくプロパン(LP)ガスと都市ガスの2つに分けられます。
「新築住宅を建築予定」「引越し先物件を探している」「プロパンガスから都市ガスに切り替えを検討している」など、プロパンガスと都市ガスの料金について知りたい方は多いと思います。
ただどんな場合においても当てはまるかというと、必ずしもそうではありません。
この記事では、両者を比較するにあたり「どのように考えれば良いのか」など、前提となる情報を掲載しています。
目次
プロパンガスと都市ガスを比較する際の注意
プロパンガスと都市ガスを比べるにあたり、いくつかの前提があります。
下記に目安となる情報や考え方を記載しますが、実際のガス料金はその場所で使ってみてから判明します。
またどのような状況なのかによっても調べ方が異なります。
- 現在プロパンガスを使用していて、都市ガスを引き込んだ場合の料金を知りたい
- 引っ越しで、都市ガスとプロパンガスの物件が候補にあがっている
- 新築の一戸建てを建築予定で、都市ガスを引き込むかプロパンガスにするか迷っている
- 物件オーナー様で、どちらの建物を購入しようか検討している
場合によっては、下記に記載する内容が当てはまらない可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
プロパンガスと都市ガスの事業者数
事業者の数 | 地域性 | ガス会社選択の可否 | |
---|---|---|---|
プロパンガス | 約1万7000社 | 地域でガス会社は決まっていない | 選べるかどうかは物件により異なる |
都市ガス | 約200社 | 地域でガス会社(一般ガス導管事業者)が決まっている | 地域に参入している事業者がいれば選択できる |
料金を比べる際、第一にどのプロパンガス会社と都市ガス会社を比べるのかという点が重要になります。
都市ガスは小売事業が自由化されていますので、「新都市ガス」と呼ばれる小売事業者を加えたとしても300社程度にとどまっています。
都市ガス会社は地域で決まっている
都市ガスは、その地域で一般ガス導管事業者が決まっています。
- 東京都23区は東京ガス
- 大阪市は大阪ガス
- 名古屋市は東邦ガス
例えば引越し先物件や現在のお住まいで比較する場合、都市ガスの事業者を知るのは難しくありません。一般ガス導管事業者を調べたい方は、日本ガス協会HPを参照ください。
また都市ガスの小売事業は全面自由化されているので、参入している小売事業者がいれば、戸建住宅でも集合住宅でも新都市ガス会社に変更できます。参照:都市ガス小売事業者を調べる
プロパンガスは選択肢が多い
プロパンガスは、ボンベから供給されるサービスであるため、地域による区分けはされません。
基本的には、〇〇市だからガス会社は〇〇社になるのではないため、比較対象とするプロパンガス会社がどこになるのか(するのか)という問題があります。
一方で集合住宅では、一般的にガス会社を選ぶことができません。
引越しする方は、「ガス会社を選べるのか」という問題もありますので、「プロパンガス物件へお引越しされる方」も参照ください。
プロパンガスと都市ガス料金を比較する
当然ながら都市ガスとプロパンガス双方の料金がわからなければ比べることはできません。
どのガス会社の料金を比べるかによりますが、ここでは関東地方を例に挙げてみます。
使用場所の地区によって別々の料金が適用されるほか、ガス機器によって割引プランが用意されているのがわかります。
それぞれを選択すると、具体的な料金表が表示されます。都市ガスは透明性が高いサービスですので、料金を知ることは難しくありません。
プロパンガスの場合には、どうでしょうか。
プロパンガス会社は多数あるのですが、ここでは関東圏の大手2社を例に挙げます。
標準料金という名目で金額が記載されています。
こちらもプロパンガス小売大手ニチガスのホームページです。⇒ニチガス料金表
同じく基本料金や1㎥あたりの単価が掲載されています。
プロパンガス会社には、行政から可能な限り料金を公開するように指導が入っていますので、多くの会社は、ホームページ上に「標準料金」のような名目で金額が記載されています。参照:標準料金の解説
ただ、ここで記載されているのはあくまでも「標準料金」です。
料金表ページでも解説していますが、プロパンガスは「個々のお宅で料金が異なる」のが一般的です。
つまりプロパンガスは、適用される料金プランがそれぞれの建物により違うのです。この点で都市ガスと大きく違います。
都市ガスとプロパンガスの料金を一概に比べることはできないのです。
都市ガス料金は一定、プロパンガスは一定ではない
プロパンガスと都市ガスの料金を比べる際、最も重要になるのが「金額の決め方」です。
都市ガスの料金は、基本的に透明化されています。ホームページなどで各プランの適用条件や料金体系が公開されていて、それがすべての顧客に対して平等に適用されるのが通常です。
- 全顧客で同じガス料金が適用される
- プランの違いがあるものの、適用条件は全顧客統一
プロパンガスは、同じガス会社の顧客A宅とB宅で料金が異なることが一般的である上、その根拠も明確ではないことも多々あります。
- 同じガス会社であったとしても、顧客ごとに適用される料金が異なるのが一般的
- 割引きなどが適用される条件も明確でないことが多い
前項でプロパンガスの標準料金について触れましたが、必ずしもそれが適用されるとは限らないのです。むしろ標準料金と同額が適用される可能性の方が低いでしょう。
対してプロパンガスは、その物件ごとに適用される料金が異なるため、確定した金額を事前に把握することが難しくなってしまいます。
この記事をご覧になっている方が、「現在プロパンガスを使用していて、都市ガスにした場合の料金を知りたい」のであれば、比べることは難しくありません。
しかし、これから引越しなど、適用されるプロパンガス料金がわかっていない方が比較しようとする場合、正確に比べることは実質的に不可能なのです。
このようなプロパンガス料金の不透明さは、長年問題視されています。
このような仕組みであるため、プロパンガスと都市ガスの料金差は、ケースバイケースで大きく変わります。
引越しで物件選びをしている方
これから引越しを予定していて、プロパンガスの物件にしようか、都市ガスの物件にしようかと悩んでいる方も多いでしょう。
賃貸で都市ガスとプロパンガス物件が混在している地域では、家賃は都市ガス物件の方が高く、プロパンガス物件は安いことが多いかもしれません。
都市ガスは料金が一定で且つ安い、プロパンガスは高い傾向にあるからです。ガス代は毎月支払うランニングコストですので、このような家賃設定になるのは当然でしょう。
一方でプロパンガス料金は、集合住宅は高く戸建住宅は安い傾向にあります。
戸建住宅に引越しする方
戸建住宅では、比較的安いプロパンガス料金が適用されることがあります。
ただプロパンガス料金は、個別での見積もりになりますので、適用される金額はその都度異なります。
参照:中古・戸建住宅へ引越しする方
都市ガス料金については、地域の都市ガス会社のホームページをご覧ください。例えば東京ガスや大阪ガス、東邦ガスがそれに該当します。
都市ガス会社がわからない方は、こちらで検索することができます。⇒日本ガス協会・ガス事業者検索
集合住宅に引越しする方
プロパンガス供給の集合住宅では、例外を除き建物でガス会社が決まっています。入居者は、ガス会社を選ぶことができません。
またはその物件に供給しているガス会社名を確認して、ホームページを見てみるのも良いかもしれません。
参照:標準料金の解説
一方で大型の集合住宅では、都市ガスよりも安いなど様々な面で優遇されている物件もあります。参照:分譲マンションのプロパンガス料金
都市ガスについては、一戸建てか集合住宅かの区別はありません。すでに候補の物件がある場合には、供給している都市ガス会社のホームページを見れば料金を知ることができます。
なぜ料金体系が違うのか
プロパンガスは、自由料金制です。つまり法律などによって料金が規制されていないため、ガス会社が自由に決めることができます。
ただ消費者側からすると、不透明という印象は拭えないでしょう。
総括原価方式と呼ばれる料金体系で、料金を国がチェックするため都市ガス会社としては、自由に決めることができなかったのです。
現在では、小売事業が自由化されたこともあり、例外を除いて都市ガスも自由料金制になっています。
実は都市ガスも事業者が自由に料金を決めることができるのです。
ただ都市ガスは、元々が許認可制であった影響から、全顧客に対して同条件で料金プランが適用される方針が継続されています。
プロパンガス料金の方が安いこともあり得る
都市ガス料金は平等ですが、視点を変えると「特別扱いができない」とも捉えられます。逆にプロパンガス料金は「特別扱いができる」という見方もできるのです。
また分譲マンションなど大型の集合住宅では、同じく都市ガスよりも安くなることも珍しくありません。
このような特別待遇ができることから、「プロパンガス料金は絶対に都市ガスよりも高い」と決まっている訳ではありません。
プロパンガス料金の見積もりは、当社でご相談を承っています。使用量が多い法人様など、見積もり希望の方は、お問い合わせください。
プロパンガスの方が熱量が多い
ここまでプロパンガスと都市ガスの料金について解説しましたが、「使用量」についても気を付けなければいけません。
プロパンガスと都市ガスでは、熱量が異なります。熱量は、カロリーと表現されることもありますが、わかりやすくいうと「火力」が違います。
- プロパンガス:99メガジュール(どの会社も統一)
- 都市ガス:45メガジュール(一般的に流通している都市ガス)
※プロパンガスは成分が同じです。都市ガスもほぼ統一されていますが例外があります。
このようにプロパンガスの方が、都市ガスよりも約2.2倍、火力が強いのです。
火力が違うということは、例えば同じ量の水を沸騰させるために必要なガスの量が異なります。都市ガスの方が約2.2倍、多く使わなければならないのです。
プロパンガスと都市ガスを比べる際、このことを考慮しなければなりません。
同じ10㎥使用した場合の料金を比べてしまうと、都市ガスの方がとんでもなく安いとなってしまいますのでご注意ください。
プロパンガスと都市ガスでは使用する機器が違う
「ガスの使用量」には、使用する機器も大きく影響します。
プロパンガスと都市ガスは、成分が違うので使用するガス機器も異なります。
また近年は、カーボンニュートラルを目指す社会風潮が強くなったこともあり、省エネ性能を備えたガス機器が続々と開発されています。
そのため給湯器などの機器が新しいか古いかによって、同じ使い方でも消費するガスの量に差が発生するのです。
これは都市ガス同士やプロパンガス同士を比べる際でも同様です。同じガスを使用する場合でも、機器によって使用量が変わることを覚えておきましょう。
その他のプロパンガスと都市ガスの違い
プロパンガスと都市ガスでは、その他にも異なる点が様々あります。
プロパンガス | 都市ガス | コミュニティーガス | |
---|---|---|---|
供給方法 | ボンベから供給 | 導管から供給 | 大型タンクの導管から供給 |
事業者数 | 約17000社 | 約200社 | |
ガス料金の決め方 | 供給会社により自由(同じガス会社でも料金が違う) | 自由だが基本的に全利用者一律 | その区域の全利用者一律 |
料金差 | 一般的に都市ガスより高い | プロパンガスより安い | プロパンガスより安いことが多い |
供給可能エリア | 日本全国:事業所から一定(基本20km)の距離以内でないと提供できない | 都市部のみ:導管が敷設されている必要がある | 供給区域、ガス会社が決まっている |
主な成分 | 液化石油ガス(プロパン・ブタン) | 液化天然ガス(メタン) | 液化石油ガス(プロパン・ブタン) |
火力 | 強い(約24000kcal) | 弱い(約11000kcal) | 強い(約24000kcal) |
空気と比べて | 空気より重い | 空気より軽い | 空気より重い |
国の扱い | 公共サービスではない | 公共サービス | 公共サービスではない |
災害時 | 個別供給であるため災害の被害を受けにくい、復旧が早い。 | 集中供給であるため災害の被害を受けやすい、復旧が遅い。 | 集中供給であるため、災害の被害を受けやすい。 |
実際に使ってしまえば同じ「ガス」かもしれませんが、色々な面で違いがあるのです。このような要素が積み重なって料金にも違いが現れています。
プロパンガスと都市ガスの料金比較(まとめ)
ここまでプロパンガスと都市ガスの料金を比べる際の情報を記載しました。
この場合、料金を比べることは難しくありません。
一方でこれからお引越しする方の場合には、候補になる物件がどこまで決まっているのかによって異なります。特にプロパンガスは、料金が安くも高くもなり得るサービスですので、慎重に検討することが大切です。
戸建て持ち家の場合には、プロパンガス料金は交渉できますので、安く保つことも不可能ではありません。
物件によっては、プロパンガス供給であっても、都市ガスと同水準の料金で利用することができるでしょう。
どのような状況でプロパンガスと都市ガスを比較しようとしているかにより異なりますが、上記をご参考にしていただければ幸いです。
都市ガス・プロパンガス料金に関するQ&A
都市ガスとプロパンガス料金は、どちらの方が安いですか?
一般的には、都市ガスよりもプロパンガス料金の方が高いことが多いでしょう。ただ契約を結ぶガス会社など環境によって料金設定が異なるので、一概に言うことはできません。
都市ガス料金の特徴は何ですか?
料金設定が全顧客に対して統一されていることが最大の特徴です。戸建・集合住宅に関わらず、同条件で料金プランが決まるので、不公平感がありません。
プロパンガス料金の特徴は何ですか?
多くの企業では、料金設定が顧客ごとに違うことです。お住まいになる物件によって、都市ガス料金と同水準のこともあれば、差額が大きいこともあります。
なぜプロパンガスは都市ガスより料金が高いのですか?
プロパンガスは個別の供給であるため、配送コストなどの関係から高くなる傾向にあります。また物件ごとに適用される料金が異なるので、不必要に高く設定されているお宅があることも影響しています。
都市ガスとプロパンガス、どちらを選べばいいですか?
都市ガスとプロパンガスを選べる環境にあるとして、一般的に都市ガスの方が安価で安心できるでしょう。ただし、災害時の復旧速度や熱量の高さではプロパンガスに利点があります。個々の環境や考え方に応じて選択することが大切です。
プロパンガスの料金を安くする方法はありますか?
ガス会社を切り替えることで料金を抑えられる可能性があります。また料金交渉を行うことも有効な手段でしょう。当社では、プロパンガスの切り替え相談や戸建住宅に引越す方の開栓予約を承っています。⇒問い合わせ
都市ガスとプロパンガスの災害時の対応の違いは?
プロパンガスは個別供給のため、災害時の復旧が早いことが強みです。一方で都市ガスは、導管を通じて供給されるため、復旧に時間がかかる場合があります。
都市ガスかプロパンガスかによって使用できる機器に違いはありますか?
都市ガスとプロパンガスは、対応する機器が異なります。都市ガス用の機器をプロパンガスで使用する場合は、部品交換が必要です。逆の場合も同様です。参照:都市ガスとプロパンガスの機器
この記事は、私が作成しました。
静岡県出身。エネルギー業界に10年以上携わり、特にプロパンガスや都市ガス、電力を専門にしています。またウェブサイトや記事も自身で作成します。ご意見や感想、指摘などありましたら、気軽にお寄せください。⇒著者情報